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空気が一変する―――
そんな状況を前にして悟浄は内心たじろいでいた。


俺、なにかしたっけか?


少なくとも帰宅して顔を合わせるまでは、八戒は普通だった筈だ。
「ただいま帰りました」という挨拶も何の変哲もなかった。

にも関わらず。
現在のこの状況は一体どういうことだろう。

買い物袋をテーブルに置きながら「知ってます? 悟浄」と声をかける八戒は
それは綺麗な笑顔を向けているのだが。
’笑顔’というものにも迫力はあるのだな、思わず警戒すらしてしまう。
同じ笑顔でも、ついこの前までは儚げとも思える印象だった筈・・・



「なんでしょ、八戒サン」

「この地区ではゴミの分別が結構しっかりしているんですよ。
’燃えるゴミ’’燃えないゴミ’’資源ゴミ’
資源ゴミはその名のとおりリサイクルされているようです」

「はぁ・・・だろうな」

「でも資源ゴミには結構細かい決まりごとがあるんです
綺麗に洗って出す、などという類のね」

「ふぅん」

「それでですね、貴方の前にあるモノですが」



目の前にある、さっき飲み干した缶ビールの空缶を見ながら
同居し始めた頃にも似たような話してなかったか?、と思い返して。
悟浄は固まった。

空缶、つまり八戒いうところの資源ゴミ。
話の流れから察するに洗ってでも綺麗にするべきそれは、煙草の灰や吸殻入れになっていて。
『あの・・・悟浄、できれば灰皿にお願いしたいんですけれど・・・』
どこか遠慮がちな、それでも記憶に残る程度には幾度となく言われた言葉。
その度に「あ〜わかった」と応える自分に困ったように笑っていたのは過去のこと。

悟浄の内心の焦りを知ってか知らずか、八戒は淡々と言葉を綴る。



「勿論、資源ゴミとして出します。
でも、本来なら中を軽く濯ぐだけで済む手間が貴方のその用途のおかげで
ちょっと増えるんですよ。口が狭いのでなかなか中のモノが出てこないときもありますし。
灰皿だったらひっくり返すだけで済むんですけれど」



灰皿嫌いみたいですが、そちらを使ってくれた方が僕も助かるんですよ、と。
表情だけは変わらず笑顔。
が、その背後に何か黒いものを感じるのは気のせいか?



「え、と・・・悪かったよ
ちゃんと灰皿を使うことにします・・・」



思わず遠慮がちに言いながら空缶を持って水場へ向かうと中を濯ぐ。
その様子を眺めながら「おや、濯いでくれるんですか、助かります」と
八戒はビニール袋から買い物品を取り出して片付け始めた。

水音が止まると同時に「ねぇ悟浄」と手を休めることも視線を合わせることもなくかけられた声に
「あ?」と悟浄は振り向いた。



「居候させて頂いていてなんですけれど、やっぱり一緒に生活しているからには
お互い気遣いだけでなく言いたいことがあれば遠慮なく言い合った方がいいと思うんです」



我慢して気まずくなっていくのもなんですから、と続く言葉に悟浄は黙り込む。
それはついこの間までの自分たちの関係に似てないか?
確かに、あの状況はできればもうご遠慮したい。



「ま、確かにな」

「だから悟浄も気に入らないことがあれば言ってくださいね
言われなきゃ判らないこともあるでしょうから」



冷蔵庫を閉めると同時にこちらを振り返ってにっこりと笑う八戒に
「お、おぅ」と返事をするのが精一杯な悟浄だった。









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埋葬編の後あたりで。
一旦開き直ったとき一番強いのは
八戒サンではないかと
(次いで三蔵かな)
・・・カッコいい悟浄サンも書いてみたいんですが

20050515












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