GUARANTEE





掌に簡単に収まる小さな銀。
ふと思いつく侭に手に取ったソレを、じっと見つめる。
こんな小さなモノなのに威力は十分過ぎるほどに知っていて。





「おもちゃじゃねぇぞ」



突然投げかけられた声に驚くこともなく顔を上げれば。
向かいのベッドで眠っている筈だった三蔵が横になった体勢は変わらずに
視線だけを向けていた。



「ワリ・・・起こした?」



悪戯が見つかった子どものように笑う悟空を前に三蔵はゆっくりと起き上がると。
どこか気だるげに髪を掻き揚げながら徐に手を差し出した。
渋ることもなく手にしていたソレを渡す。



「ったく・・・勝手に人のモンに触ってんじゃねぇよ
壊れたらどうすんだ」

「ちょっと触ってみただけじゃん。
大体、そんなことで壊れるようなヤワなモンじゃないだろ」

「どうだか
お前の場合、その馬鹿力で持っただけで壊しそうだからな」

「ひっでぇの」



拗ねたように顔を膨らませる様はとても年相応には見えず。
勿論、本気で拗ねたわけでもないだろうが。

三蔵の手元へと移ったソレに視線を移す。



「なぁ・・・」

「なんだ」

「八戒や悟浄もそうだけど・・・
三蔵の武器も遠くからの攻撃が出来ていいよな。
俺の場合、直接ぶっ叩いてるじゃん」

「人それぞれってもんだろーが。
なに今更なこといってやがる」

「そりゃそーだけど。
それってつまり離れてても相手を斃せるってことだな〜と思ってさ」

「・・・なにが言いたいんだお前は」

「うん・・・だからさ
―――三蔵の身体に触れる前に、ちゃんと狙えるなって」



銃を持つ手の動きがピタリと止まる。
一瞬だったが、見開かれた紫暗。

視線は逸らされたままだったが、悟空はさり気ない風を装い言葉を続ける。



「俺、覚えてないんだけど。
今までにだって、本気で銃口向けたことってあるんだろ?
例えば、さ・・・この金鈷が外れた時、とか。
でも俺、三蔵に撃たれたこと、ないよな。生きてんだよな」

「・・・・・・・・・・・・」

「ほんと、やさしーよな、三蔵は」



真っ直ぐに向けられる、力強いとさえ思える金の視線。
己の視線には力があると常々昔から云われ続けてきたが。
逆らえない視線というならば、これこそがそうではないのかと。



「・・・なに馬鹿なこといってやがる。湧いてんのか?
あんまりフザケたこと云うと殺すぞ」

「うん、頼むな」



視線が、ぶつかる。
つい先程までの笑顔は消え、どこか無にさえも感じられるような・・・



「殺して、くれるんだよな
だから、俺の知らない間に三蔵がいなくなることは、絶対ないよな」

「・・・ごく・・」

「三蔵は、約束したことは守るもんな」



ふわり、と笑うその表情はどこか儚げにさえ感じられて。
言葉は淡々と、まるで他人事でも話しているように。
でも視線だけは澱みなく向けられて。




あの時―――

叫びと同時に悲痛なほどに響いていた声なき声は
故意なのか、いまではほとんど聞えない。
悟空の心情はわからない。その笑顔の下の本音は見えなかった。



ふい、と先に視線を逸らしたのは三蔵だった。
銃を手元近くに置くと、再びベッドに入ろうとする。



「三蔵」

「もう遅い、お前もさっさと寝ろ」

「・・・・・・ん」



悟空がベッドに横になる様子を座った体勢のままで見ていた三蔵だったが。
コチラに顔を向けたまま、問いかけるかのような視線に気付いた。
眠る様子のないことに密かに溜息を吐く。

ベッドから降りると、悟空が寝ているベッドの枕元へと歩み寄る。
手が触れようとした時に、一瞬ビクリと身体が震えたが、
気にすることもなく悟空の髪を宥めるかのように撫でる、



「・・・仮定の話なんざやるだけ無駄だろうが
んなくだらねぇlことをいつまでも引き摺ってんじゃねぇよ」

「そりゃそーだけど・・・」

「それともなにか?  
お前、自分もいつかああなるっていう心配してんのか?
それこそくだらねぇな」

「ん〜そういうわけじゃないけどさ
あんなの見せられると考えたっておかしくないだろ
―――人間じゃないんだから」

「・・・人間だって狂うこともあるんだがな」




経文のことさえなければ。
いっそそうなった方がどんなに楽だろうと
思ったことがなかったわけでもない。





髪を梳いていた掌が頬から額へと移る。
感じるのは冷たい感触。封じるモノ。
一度目や二度目と違い、三度目は自らの手によって外させた。
この先もそうならないという保証はどこにもない。

だが―――
アレは約束の範疇になるのだろうか、と。
何故か突如頭に過ぎる。


黙ってしまった三蔵をじっと見つめ続けていた悟空だったが。
視線こそこちらに向けてはいるものの、心ここにあらず、とばかりに
考えに耽っている彼に、困ったように微笑う。

こんな顔を彼にさせたいわけでもなく。
同時に、確かにこんな考えは自分らしくないかなと。



重ねられた手に、三蔵はハタ、と我に返ったらしい。
目を瞬かせる彼に向けられたのは常と変わらぬ笑顔。



「ホント、こんなに考えんのって俺らしくないよな、もうやめる。
それに、一応保証・・・っての? してもらったことには変わりないし」

「なんだそれは・・・」

「だから、殺してくれるんだろ」

「・・・お前、俺がいってたこと聞いてねぇだろ」



疲れたように溜息を吐く三蔵にくすりと笑いながら
「ちゃんと聞いてたってば」と上半身を起こす。



「でもさ、俺、三蔵より先に死ぬつもりはないかんな。
それだけは云っとく」

「そうかよ。ま、精々長生きするんだな」





狂うほどの絶望感を味わったこともあるだろうに。
この子どもは何故ここまで強くあれるのかと昔から思う。

己よりは先に死なないと豪語し、「おやすみっ」と云った途端に再度横になったまま
どうやら漸く寝入ってしまった様子に苦笑を零しつつも。
こうも真っ直ぐな魂が穢れてしまう様など全く予測が付かないのも事実で。
だからこそ、きっかけはどうあれ湧き上がった不安は冷静に考えれば考えるほどに
杞憂に過ぎないと思えるのだ。

それでも。万が一の可能性はゼロとも言い切れず。
そうなれば。おそらく、、己の手で殺してしまうことに躊躇いはないと思う。
己以外の手によって殺させるつもりは毛頭なく
再び封印という手段で、またしてもあんな絶望感を味あわせるつもりもない。



――・・・本当にくだらねぇな






先のことなぞ知ったことじゃない
己らしく、日々を足掻いて過ごせばいいのだ






雪山編後
ゼロサムで読んだ時には勢い余って(笑)八戒&悟浄視点で
ネタにして書いたのが約2年前(もうそんなになるのか・・・)
アニメ化されたのにあたり、今回は三蔵&悟空で挑戦。
―――・・・・・・・・・偽者(苦笑)

”所詮パラレル”と少々性格変わっても言い訳の立つパラレルと違い
原作ネタはそういう意味でも難しいです。
どうやったって推測でしか書けませんからね〜本人達じゃないし。
キャラの性格を確実に掴んでいるのは御大だけでしょうし

ま、そんなこといってたら書けませんから、一つの仮定ということで。
でも相も変わらず纏まりないですねぇ
当初のイメージとは違う話になるのは何故だろう・・・(苦笑)


20040611




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