Eternal










一人、また一人と倒されていく妖怪達。
何度目かともしれぬ団体の襲撃にうんざりしながらも、応戦していく。
全て倒し終わった後に残るは無残に転がる死体のみ。中にはかろうじて原型を留めるモノもある。
最終的に行き着くところは同じとはいえ、4人の内の誰を相手にするかによっては
受ける衝撃も苦しみもかなり差があるように見受けられた。





「しっかし、アチラさんも飽きないよなぁ」

「そうですねぇ…
この惨状が噂になってるなら、いい加減手を出すの諦めても良さそうなんですが」

「いい運動にはなるけどよ、自殺志願者なら他でやってほしいぜ」




いつもの軽口の応酬。
目前に転がるいまやすっかり肉片と化した物体を黙って眺めていた悟空は
やがてくるりと八戒へ視線を向けた。




「あー腹減った。八戒、なんか食うモンない?」

「すみません。もう少し行けば街に着く筈ですから、それまで我慢して下さいね」

「え〜? 俺もぉ動けないよ」

「小猿ちゃんは別になんもしないで乗ってるだけでいいじゃねーか」

「サルってゆーな、エロ河童!」




案の定、揶揄う口調で混ざってくる悟浄との応戦でいつもの喧嘩になろうとした時。






「おい」



声の侭に振り返った先の姿を認め、悟浄と八戒は共に息を呑む。
そこには、まさしく”血の雨に降られた”といわんばかりの、全身血の色に塗れた三蔵がいた。



「…おーお、三蔵サマ。今回も一段と派手だねぇ」



軽口を叩こうとして、思わず引き攣った口調になる。
今となっては初めてではない光景ではあるが、未だに慣れないのも事実だった。
当然、三蔵自身が流す血は欠片もなく、全て返り血である。


特に、雫が流れ落ちる程の両の手を一瞬振り払うと。
三蔵はす…っと彼等の側を離れた。



「三蔵?」

「…水浴びしてくる」

「じゃ、終わる頃着替え持ってくな」

「ああ」



慣れた会話。

そう言ったきり三蔵は振り返ることなく目的地へと向かっていた。
その後姿をじっと見送っていた悟空は、やがてジープへと戻ると。
手馴れた仕草でタオルや三蔵の着替えを用意し始めた。


そんな2人の様子を見ながら。
悟浄も八戒も思わず溜息を零す。




「なぁ…アレ、どうにかなんねぇか」

「どうにかなるならとっくにそうしています」





三蔵の希みも悟空の希みも。
言葉を聞いているだけならば微笑ましいものに過ぎなかった筈なのに。

一体、どこで歯車が狂ってしまったのか。
…なにが、きっかけで。





「僕達にはどうすることも出来ません。
そして、止めろということも」

「…だな」




自分達に出来ることは。
これからどうなっていくのか見守ることだろう。
















パシャリ…

静かに響く水音。
まだ水浴びする季節には程遠いのだが
寺院で修行の一環で全く経験が無いわけでもない。

軽く肌を擦れば血の色は簡単に落ちる。
その様を自嘲のままに見遣る。





…まだ、足らねぇのか




こんな弱い身体などいらない
何より、アイツの希みが叶うならそれがいい




―――あとどれくらい殺せばいいんだろうな






得物を銃から持ち替えて。
もっとも返り血を浴びる方法で斬りつけて。


前例が何よりも側にいるからこそ
実行するのに躊躇いはなかった。

足らなければいくらでも

この身に血を浴びることなどなんとも思わない
元々この手は血塗れなのだ。





―――いつまでも、ずっと一緒にいれたらいいよな―――





「いてやるさ、何をしてでも」



そう呟き口の端を僅かに緩める三蔵の目にはどこか狂気に近い何かが宿っていた

















「さんぞ? あまり長くいると風邪ひくって」



頃合を見計らって悟空が辿り着いた時。
三蔵は、未だ水の中にいた

ふと、脱ぎ捨てられていた、血に染まった服が目に止まる。

僅かな溜息と共に手に取ると、岸辺で洗い始めた。





本来身に付けるべき法衣を脱いでどれくらい経つのか。
アレは流石に毎回血に塗れさせるというわけにはいかないからと。
仕舞いこんだ侭出されることはなくなった。




三蔵は軽くその身の水気を拭き取っただけで、着衣する。
それでも、シャツは軽く羽織ったままでボタンを止めることもなく。
濡れて色合いが変わった髪からは雫が落ち、肩を濡らしていた。

取り合えず軽く水洗いを済ませた悟空は近付いてきた三蔵の有様に眉を寄せる。




「三蔵っ、髪はよく拭かないとダメだっていっつも自分が言ってたじゃんか」





無理矢理に座らせると。
タオルを取り上げて三蔵の髪を拭き始めた。
当の本人はやや俯いた侭何も言わないで、されるがままだ。
どんな表情をしているのかは、タオルに隠れて判らない。


ある程度水気を取ると、悟空は下から覗き込む。




「三蔵? どうしたんだよ」




すると。
ゆっくりとした動作で引き寄せられ、腕の中に閉じ込められる。
悟空はされるがまま身動ぎしなかった。
何もいわずに、三蔵の言葉を待つ。




「―――まだ…足りないらしい……」

「…うん」

「こんなに俺は望んでいるのにな」

「うん」

「あとどれくらいでお前と同じになれる…?」




―――お前といつまでも共にあれる………?





「いっそお前の血を取り入れて同じになれればな」

「三蔵がそうしたいなら、いくらでもあげるけど?」





お互い、相手の肩口に頭を乗せている状態なので、表情は判らない。
言葉は淡々と交わされている。





「…焦らないでいいよ。俺は三蔵の側を離れないから」

「……」

「三蔵が何をしても、どんなことをしても。離れるつもりはないんだ」




人である三蔵と異端である自分ではおそらく流れる時間は違うのだろう。
だが、人の時間でもまだ20数年しか生きていなくて、先はまだ長いだろうに。
何故こんなにも早い時期から三蔵が焦るのか、悟空にはその理由が判らない。




「…そうだな、まだ時間はある」




だが…

三蔵にとっては、改めて危惧することがあった。




血を持つ敵はいなくなるかもしれない……
あとどれくらい、殺せばいいかもはっきりしていない。




しかし、この希みを諦めることも今となっては出来そうもなかった。



例え、妖怪という種族を全て根絶やす程の殺戮が必要だとしても。
狂ったヤツラだけでは足りなくて、そうでないヤツや時には子供でさえ。

―――必要ならば、いくらでも。




それでも足らなければ、……







「さんぞ?」




己を抱く腕に力が入り、少し苦しく感じたものの、悟空は逃れ様とは思わない。
彼の腕の中は心地良くて。
いつまでも、この中にいたいとさえ思ってしまう。



だからこそ悟空も三蔵の希みを止めようなどと思わない。
それは間違いなく、悟空の希みでもあるのだから。

彼がどんなに血に塗れようと構わない。
そうあってさえも穢れているとは欠片も感じない。

寧ろ、綺麗だとさえ感じてしまう自分は、狂いはじめているのだろうかと。



彼が、血をその身に浴びるたびに。
今度こそと、生まれ変わる彼の姿を、同じ時間を共に生きることを
心待ちにしている自分がいる。





「大丈夫だって。
まだ尽きないよ、…生贄は」




自分達を狙ってやってくる、刺客と称する妖怪達。
彼等は思いもしないだろう。
狙っている筈の自分達の命こそ実は狙われているのだということを。




「目的地はまだ遠い…よね」

「そうだな」





こうしている間にも拡がっているという異変。
だが。もっともっと狂ってもらって構わない。
襲ってくる相手なら、それこそ遠慮なく、その血を流せる。

無殺生だという神の命令の元に、簡単に正当化出来るのだ
”正当防衛”というもっともらしい理由で。







使命なんざ、ついでで充分だ――――――





















20030309







39記念企画。
いつも他サイト様の作品を楽しむ一方だったのですが自分でも
やってみたくなりまして(笑)
書きかけストックからそれらしいもの(?)を拾って仕上げてみました。

…何を思って書こうと思ったのか今となっては思い出せないのですが
いざ書き始めてみると内容的に普通にUPは出来ないだろこれは、
どうしようかな…と(笑) (少なくとも健全サイト向の作品じゃない…☆)

ある意味『THE SUN〜』と対ともいえますね。
こちらの三蔵は悟空と共に生き続けることに執着してますから。
いつもよりもお互いへの執着欲も増しているのは敢えて、です(笑)
…でも、書けるのは精々ここまで☆













SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送