ありがとうございました♪

お礼の小話です


#4




「・・・ごちそうさま」


そう言って箸を置いた子供の前にはまだまだ随分と料理が残っていて。



「・・・もういいのか?」

「ん・・・あんまし腹減ってないし」



にこり、と笑ってはいても、その笑顔には精彩はなく寧ろどこか儚げで。
先に部屋に戻ってるね、と窓から視線を反らすようにして、悟空は部屋を出て行く。
明らかに無理をしている様に、三蔵は密かに溜息を零す。







もう春も近い時期だろうに、ここ数日の天候は雪。
しかも、冷え込みが連日続き、しっかりと積雪していた。

この冬最初の大雪となった頃
丁度仕事が立て込んでいた三蔵は、養い子が日中珍しく煩く自分に纏わりついてこないことに
雪遊びにでも夢中になっているのだろうと思っていた。
ところが、食事さえも顔を出さないという大僧正の指摘に、これは風邪でも抉らせたのかと
今度は余計な手間を増やされたことに苛ついた。

だが、扉を開けたその奥にいたのは
毛布を頭から被り膝を抱えて蹲っている子供の怯えた表情。

流石に只事じゃない様に如何を問えば、なんでもないからと首を振るだけで。
納得いかずに無理強いすると、ポツリと返ってきた言葉は、


雪が、怖い


予想もしなかった言葉に唖然とし、なんの冗談だと思ったのはほんの一瞬で。
視界に入らないようにしている様に本気だとすぐに判った。



判ったからといってどうにもならない理由。
本人の問題であってどうすることもできない。
とはいえ、下手すると完全に閉じこもってしまいかねない子供を放っておくのも
拾ってきた責任上気がひけて。
さてどうしたものかと執務中にも関わらず思案していたときに、大僧正にかけられた言葉。

”偶には御子と食事をご一緒になされませ”

御一人では只でさえ質素な食事がますます侘しくなりますからなぁ、と
ほほ、と笑いながらも既にそれは強制に近い言い様で。
その日から時間が許す限り食事時には自室に戻り、悟空と共に食事をするのが日課にまでなっていた。
勿論、悟空が喜んだのは云うまでもない。
だが。
それとは裏腹に、雪の日が続けば日に日に悟空の食事の量は減っていく。
三蔵自身も食が細い方だが、その自分と同じ位しか食べないとあっては
流石に気にかかるというものだ。

いつもは一体どこに入っているんだと言わんばかりの量から、並以下の量へ。
「外に出ないから腹が減らないだけだよ」と。
それしか云わない悟空に三蔵も「そうか」と頷くしかない。

少なくとも、自分が側にいれば悟空は平時を装い、大丈夫だと笑う。
何も食べずに閉じこもることだけはないのを良しとするしかなかった。

後は、何かきっかけさえあれば、いいのだと思ってはいても。
その影さえ掴むことのできない己の不甲斐無さはどうしようもないのだが。







またも降り積もり始めた雪を眺めながら、三蔵は深く溜息を零し。
当分また食が細くなるだろう養い子を想い、煙草を口にしたときに。

ふと、目の端に止まったものがあった。

暫しじっと見つめていたそれで何かを思いついたのか
まだ少ししか吸っていない煙草を灰皿に擦り付けると、三蔵は部屋から出た。








寝室の扉を開ければ案の定、悟空は毛布を頭から被り部屋の隅で蹲っていた。
初めて会った岩牢の中の姿と重なり、三蔵は眉根を寄せ
ずかずかと悟空の前に歩み寄る。



「おい、サル」



部屋に三蔵が入ってきたことに気づかなかったのか、
突然間近にいた三蔵に悟空は大きな瞳を更に大きくする。



「え・・・さんぞ? な、なに・・・」

「手、出せ」

「え・・・?」

「いいから出せ」

「う、うん」



恐る恐るといった態で差し出した両の手の平に冷たいものを感じて。



「な、なに・・・っ?」

「落とすと壊れるぞ」



目に飛び込んできたのは、真っ白いモノ。

・・・雪のかたまり?

だが、赤と緑の何かがくっついていて。
改めてまじまじと見ると、それは・・・


・・・うさぎ?



「え…と、さんぞ? これ・・・」

「いくらなんでもそれが怖いということはないんだろう?
まずは冷たさにでも慣れろ」

「・・・冷たいのは知ってるけど・・・」



怖いと思った理由に、冷たいから、とも言ったけど。
本当は、もっと違った理由があって、三蔵も解ってはいるんだろうけれど。

手の平にちょこん、とのせられた白い物体は、赤い目が可愛らしくて。
雪の冷たさなんて気にならないくらいにあどけなくて。

じっと見つめていた悟空は、微笑ましさにふわりと微笑う。
久し振りの嬉しそうな笑顔。
はにかむように笑いながら「三蔵がこんなの作るなんて思わなかった」と
撫でるように触って喜んでいる悟空に。
すぐには無理でも、ほんの少しずつでも馴染んでいけばいいのだと。

三蔵も表情を僅かながら緩めた。





…もう冬も終わりだって頃に雪話(苦笑)
イメージ通りにいまひとつ書けていない気満々…

今年の冬も、書きかけ雪ネタは放置で終わるようです
(一体何年かけて書いているんだか/笑)
ネタはあっても進みそうで進まない雪関連・・・

20050228





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