#1


いつものように、ひとりで山で遊んだ帰り道。
ふと、視界に入ったモノが気になった。

―――?

少し、回り道になるのを承知の上で、気になるままに、ソレを目指してみる。
木々の合間を通り抜けると。途端に視界に入ってきた鮮やかな黄色。
思わず、呆然と立ち尽くす。
見上げる角度が大好きな金色と同じで。
暫しじっと魅入っていた。

「花が好きかい?」

横から。突然聞こえた声と、現れた人影に。
悟空はビクリと怯え、思わず後ずさる。

「おや、驚かせちゃったかい、すまないね」

にこにこと、人の良さそうな笑みを浮かべて。
花の中から現れたのは、優しげな雰囲気を纏った中年の女性だった。
吃驚したのは確かだが、それが理由ばかりではなく、動くことができなかった。


三蔵に、寺院に連れてこられて以来。
三蔵を気にしてか、侮蔑と蔑みこそあれ影でこそこそと囁くばかりで
面と向かって悟空に話しかける者など、誰もいない。
悟空にしても、着いた早々人目を忍んで隠すように納屋で過ごさせた三蔵の意図を思ってか
それとも、見つかった時点での経験や彼等僧達の自分への態度を理解してか。
自分から彼等に関わろうとは思わなかった。
お陰で、三蔵以外との他人の接触が未だほとんどないに等しいのである。


僧達しか知らない悟空は、彼等の態度の方が普通なんだと思い込んでいる。
彼等しか知らないのだから無理もないことだが、目の前の女性が自分に向かって
笑顔で話しかけるという行為に、戸惑いを覚えたのだ。

だが、女性の方は気にすることもなく。
手にしていたキリバサミで周囲を見回すと。数本の花を切った。
束ねて、黙ったまま何も言わない悟空の方へと差し出す。

「はい、持ってお行き」
「・・・・え・・・?」
「気に入ったんだろう? あげるよ」

ほら、と。女性は躊躇している悟空に持たせる。
背の高い大きな花束は、悟空の腕の中を一杯に埋めた。
女性の顔と、その花束を代わる代わる眺める。
にこにこと笑い続ける女性に、漸く安心したらしく。

「あ・・りがと・・・」

はにかむように。悟空は微笑った。




パタパタと、廊下を走ってくる軽い足音が聞こえてくると同時に。
執務中の三蔵は、ピクリと眉を顰める。

あれほど中じゃ走るなといったってのに

軽く溜息を零す。
だが、扉の前でピタリと止まったきり、入ってくる様子のない子供を訝しく思い
席を立つと、扉を開けた。
途端、目に入ってきた鮮やかな色に、思わず瞬く。

きょとん、とあどけない表情で、両手に大輪の花束を抱えて
扉から出てきた三蔵を見つめていた。

「・・・それはどうした?」
「あ・・え〜と・・・きれいなトコがあって・・・
見てたら、もらった・・・」
「ふん・・・向日葵か」
「ひまわり?」
「その花の名前だ」

中に入るように促すと、三蔵は扉を閉めながら部屋内を見回す。
モノがモノだけに、普通の花瓶では倒れそうだ。
大事そうに抱え込まれた花束に、さてどうしたものかと思案して。
ふと、備え付けの棚が目に止まった。
そういえば、と中から取り出したのは、見るからに立派そうな木箱。
入っていたのは、それは高そうな白磁の壺。
手に取り、これなら丁度いいかと悟空に差し出す。

「おい、とりあえず花は置いて、コレに水をいれてこい」
「これに?」

いわれるままに花をテーブルの隅の方に丁寧に置くと。
おそるおそるといった感じで壺を受け取る。
だが、それきり途惑うように動こうとしない様子に三蔵は「どうした?」と問いかけた。

「早くしねぇと花が枯れるぞ」
「で、でも・・・これ・・・いいの?」
「あ? 使ってなかったもんだ、別に構わねぇだろ」

本来の使い道は飾り物としてだろうが。
仕舞い込んでいれば意味がない。
例え花瓶として使おうが、入れ物には変わりないだろう。

「いいからさっさと入れてこい。しっかり持っていけよ」
「・・うん!」

漸く納得したのか、嬉しそうに笑うと。
悟空は言われたとおりにしっかりと抱えて部屋を出て行った。

そして、机の上に置かれた、向日葵。
白い花瓶に黄色の花びらがよく映えて、「三蔵みたいだね」と
この上もなく嬉しそうに、悟空は笑った。





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ネタ的に夏季限定でしょうか。
思いつくまま書き上げてみました(笑)

20040814











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